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最高裁判所第一小法廷 平成6年(あ)1021号 判決

主文

本件上告を棄却する。

当審における未決勾留日数中七〇〇日を本刑に算入する。

理由

一  弁護人堀敏明の上告趣意第一は、平成七年法律第九一号(以下「改正法」という。)による改正前の刑法(以下「旧法」という。)二〇五条二項は憲法一四条一項、一三条に違反して無効であるから、本件について旧法二〇五条二項を適用した原判決は、憲法の解釈を誤ったものである旨主張するが、右規定が憲法の右各条項に違反するものでないことは、当裁判所の判例(最高裁昭和二五年(あ)第二九二号同年一〇月一一日大法廷判決・刑集四巻一〇号二〇三七頁、最高裁昭和二六年(あ)第二一三七号同二九年一月二〇日大法廷判決・刑集八巻一号五二頁)とするところであるから、所論は理由がない(最高裁昭和四五年(あ)第一三一〇号同四八年四月四日大法廷判決・刑集二七巻三号二六五頁、最高裁昭和四八年(あ)第一九九七号同四九年九月二六日第一小法廷判決・刑集二八巻六号三二九頁、最高裁昭和五〇年(あ)第一五六三号同五一年二月六日第二小法廷判決・刑集三〇巻一号一頁参照)。

二  同弁護人のその余の上告趣意のうち、憲法三六条、三八条違反をいう点は、記録を調べても、自白の任意性に不当な影響を及ぼす取調べが行われたと疑うに足りる証跡は認められないから前提を欠き、その余は、違憲をいう点を含め、実質は事実誤認、単なる法令違反、量刑不当の主張であり、被告人本人の上告趣意は、事実誤認、単なる法令違反、量刑不当の主張であって、いずれも刑訴法四〇五条の上告理由に当たらない(なお、記録を精査しても、原判決に所論の事実誤認、法令違反があるとは認められない。)。

三  なお、改正法による刑法の改正と本件における法令の適用との関係について、職権をもって判断する。

1  原判決言渡し後の平成七年六月一日施行された改正法は、傷害致死罪を定めた旧法二〇五条一項に相応する規定として二〇五条のみを置き、その加重類型である尊属傷害致死罪については、旧法二〇五条二項に相応する規定を置いていない。そして、改正法附則二条一項ただし書は、旧法二〇五条二項の適用について、改正法施行前にした行為の処罰についてなお従前の例によるとした同附則二条一項本文を適用しないと定めているから、改正法は、傷害致死罪の加重類型である尊属傷害致死罪を廃止して、これを傷害致死罪に統合することにより、実質的に、尊属傷害致死の行為に対する刑を変更したものと解するのが相当である。

2  これを本件についてみるに、第一審判決は、罪となるべき事実の第一として、尊属である被告人の実母に対する傷害致死の事実を認定した上、これに旧法二〇五条二項を適用しており、原判決も、右の事実認定及び法令の適用を是認しているところから、本件は、刑訴法四一一条五号にいう原判決後の刑の変更に当たる場合というべきである。しかしながら、本件においては、尊属傷害致死罪について、改正法による改正後の傷害致死罪の法定刑にない無期懲役刑ではなく、有期懲役刑を選択し、かつ、右罪と併合罪の関係にある殺人罪につき選択した無期懲役刑を処断刑としているのであって、右刑の変更が量刑に与える影響は大きくないことに加え、本件各犯行の動機、犯行の手段方法の悪質さ、結果の重大性、犯行後の情状等にかんがみれば、被告人を無期懲役に処した第一審判決を維持した原判決の量刑は、右刑の変更の点を考慮しても相当であるから、原判決を破棄しなければ著しく正義に反するものとは認められない。

よって、刑訴法四〇八条、一八一条一項ただし書、平成七年法律第九一号による改正前の刑法二一条により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 高橋久子 裁判官 小野幹雄 裁判官 遠藤光男 裁判官 井嶋一友 裁判官 藤井正雄)

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